AI時代だからこそ考えたい「作ること」を目的にしないデザイン

生成AIの普及により、専門的な知識がなくても画像やチラシなどを手軽に作れるようになりました。しかし、デザインの本来の目的は「作ること」ではありません。本記事では、企業の販促や広報でAIを活用する際に大切な、ターゲットや目的の設定、著作権、印刷時の注意点などを分かりやすく解説します。

目次

1.AIによって「デザインを作る」ことは身近になった
2.「作ること」そのものが目的になっていませんか?
3.AIを使う前に「誰に・何を・何のために」を考える
4.AIには「作らせる」だけでなく「考える」ことも手伝ってもらう
5.AIで作ったデザインを使用するときに確認したいこと
6. 結論・まとめ

1. AIによって「デザインを作る」ことは身近になった

生成AIの急速な普及によって、デザイン制作を取り巻く環境は大きく変化しています。

以前は、チラシやポスター、広告などを制作するためには、デザインソフトの操作や画像加工など、ある程度の専門的な知識や技術が必要でした。

しかし現在では、生成AIに作りたいもののイメージを文章で伝えることで、短時間で画像やデザインのアイデアを作成できるようになっています。

例えば、「家族向けイベントの明るいチラシ」「高級感のある飲食店の広告」といった要望から、デザインの方向性を検討することもできます。

完成したデザインを修正する場合にも、「もう少し落ち着いた雰囲気にする」「若い世代に親しみやすい印象にする」といった指示を与えながら、さまざまな案を試すことができます。

このように、専門的なデザイン技術を持っていない人でも、自分のアイデアを視覚的な形にしやすくなったことは、生成AIがもたらした大きなメリットです。

特に中小企業では、チラシやSNS用画像などを社内で作成する場面も少なくありません。生成AIをうまく活用すれば、制作時間や負担を減らしながら、多くのアイデアを検討できる可能性があります。

また、デザイナーや制作会社へ依頼する場合でも、事前にAIでイメージを作成しておけば、希望する方向性を伝えるための参考資料として利用できます。

一方で、誰でも簡単に成果物を作れるようになったことで、新たに意識したいこともあります。

それは、**「デザインを作ること自体が目的になっていないか」**という点です。

生成AIで思い描いた画像が完成すると、それだけでも楽しく、大きな達成感があります。

しかし、企業が広告や販促のためにデザインを利用する場合には、その先にある本来の目的を忘れないことが重要です。

2. 「作ること」そのものが目的になっていませんか?

生成AIを使ってみると、わずかな時間でさまざまな画像を作ることができます。

指示を変えるたびに新しいデザインが生成されるため、「次はこんなものを作ってみよう」と試したくなることも、生成AIの楽しさの一つでしょう。

しかし、企業がチラシやポスター、パンフレットなどを制作する場合、成果物が完成することは本来のゴールではありません。

例えば、新商品のチラシを作る目的は、チラシそのものを完成させることではないはずです。

商品の特徴や魅力をターゲットへ伝え、問い合わせや来店、購入などにつなげることが、本来の目的になります。

会社案内であれば、自社の事業や強みを理解してもらうことが目的かもしれません。求人広告であれば、自社が求める人材から応募してもらうことが重要になります。

つまり、同じ「デザインを作る」という作業でも、その先に求める結果はそれぞれ異なります。

ここを整理しないままAIにデザインを依頼すると、見た目はきれいでも、本来伝えるべき情報が十分に伝わらない成果物になる可能性があります。

特に注意したいのが、AIが作った画像の完成度と、販促物としての効果を同じものとして考えてしまうことです。

印象的な画像や美しいレイアウトであっても、一番伝えたい商品名が目立たなかったり、問い合わせ先が分かりにくかったりすれば、販促物として十分に機能しているとはいえません。

反対に、一見するとシンプルなデザインでも、重要な情報が瞬時に理解でき、見る人を適切な行動へ導けるのであれば、目的に合ったデザインと考えられます。

そのため、AIで成果物が完成したときには「うまく作れた」で終わらせず、**「このデザインで目的を達成できるだろうか」**と改めて確認することが大切です。

AIによって「作ること」が簡単になった時代だからこそ、「なぜ作るのか」を考える重要性は、むしろ高まっているのではないでしょうか。

AIを利用したデザインのバリエーション

飲食店のチラシをAIを利用してデザインを編集した例です。指示文のみで、デザインが簡単に変わる事が分かります。
一方、AIにより生成されたイラストや画像が著作権や商標権を侵害していないか、生成された内容が実態に合っているか、テキストの誤りが無いかなど確認が必要となります。

ダイニングのチラシ「元画像」

元データとなるフリー素材のチラシ

ダイニングのチラシ「大人女性向け」

「大人女性をターゲットにしたデザイン」

ダイニングのチラシ「高級感」

「高級感のあるデザイン」

ダイニングのチラシ「ファミリー向け」

子供連れでも利用しやすい雰囲気のデザイン

ダイニングのチラシ「ランチ限定」

ランチ限定のデザイン

ダイニングのチラシ「求人用」

求人チラシ用のデザイン

3. AIを使う前に「誰に・何を・何のために」を考える

AIを使ってデザインを始める前に、まず整理しておきたいのが「誰に」「何を」「何のために」という3つの要素です。

これはAIを利用する場合だけに必要な考え方ではなく、チラシや広告などを制作するときの基本でもあります。

誰に伝えるのか

最初に明確にしたいのが、デザインを見る相手、つまりターゲットです。

同じ商品やサービスでも、誰に伝えるかによって適切な表現は変わります。

例えば、飲食店のチラシを制作するとします。

子育て世代の家族をターゲットにする場合と、大人の女性をターゲットにする場合では、写真、書体、配色、キャッチコピーなどの方向性が異なります。

さらに、「30代女性」と設定するだけでは十分とは限りません。

どのような生活をしている人なのか、何を重視して商品を選ぶのか、どのような悩みを抱えているのかまで考えることで、伝えるべき内容が明確になります。

生成AIにデザインを依頼する場合も同様です。

単に「飲食店のチラシを作って」と指示するより、ターゲットや利用場面などを具体的に伝えた方が、目的に近い提案を得やすくなります。

何を伝えるのか

次に考えるのが、ターゲットへ最も伝えたい情報です。

商品の価格なのか、品質なのか、使いやすさなのか、期間限定の特典なのかによって、デザイン上で強調すべき部分は変わります。

一枚のチラシに、商品の特徴や会社情報をすべて詰め込みたくなることもあります。

しかし、情報が多すぎると重要な内容が埋もれ、結局何を伝えたいのか分からなくなることがあります。

そこで、「この販促物を見た人に、一つだけ覚えてもらうとしたら何か」を考えてみるとよいでしょう。

伝えたい情報に優先順位を付けることで、AIへ指示する内容も整理しやすくなります。

何のために作るのか

そして、最も重要なのが目的です。

例えば「チラシを作る」は目的ではありません。

「新商品の認知度を高める」「店舗への来店を増やす」「問い合わせを増やす」「展示会のブースへ来てもらう」などが、本来の目的になります。

目的が違えば、同じ商品を紹介するチラシでも構成は変わります。

認知を目的とするなら、商品名や特徴を印象に残すことが重要です。一方、問い合わせを目的とするなら、連絡先や問い合わせ方法がすぐ分かることも重要になります。

このように、「誰に・何を・何のために伝えるのか」を先に決め、その後にデザインを考えるという順番が大切です。

AIを使うことで制作工程を短縮できても、この順番そのものを省略してよいわけではありません。

4. AIには「作らせる」だけでなく「考える」ことも手伝ってもらう

生成AIというと、画像や文章などの成果物を作るための道具というイメージが強いかもしれません。
しかし、企業のデザインや販促でAIを活用するのであれば、「完成品を作らせる」ことだけに利用する必要はありません。

むしろ、制作を始める前の**「考える段階」からAIを活用する**ことで、より有効な使い方ができます。

例えば、新しいサービスを紹介するチラシを作るとします。
いきなり「新サービスのチラシを作ってください」と指示するのではなく、最初にターゲットについてAIと整理する方法があります。
「このサービスを必要とするのはどのような企業か」「担当者はどのような課題を抱えているか」「何を訴求すると興味を持ってもらいやすいか」といったことを検討します。
そのうえで、キャッチコピーや掲載内容、デザインの方向性などを考えていきます。

複数の案を比較する用途にもAIは適しています。
例えば、商品の「価格」を中心に訴求する案と、「品質」を中心に訴求する案を作り、それぞれどのようなターゲットに適しているかを検討できます。
一つの案を完成させるためだけではなく、複数の可能性を短時間で比較できることもAIの強みです。

ただし、AIから出された提案をそのまま正解と考える必要はありません。
自社の商品について詳しいのは自社であり、実際のお客様の反応や過去の販促結果など、AIが把握していない情報もあります。
AIから提案を受け、それを自社の経験や目的に照らして取捨選択することが重要です。

つまり、AIにすべてを任せるのではなく、「一緒に考える相手」として利用するという発想です。
制作作業を効率化するだけでなく、企画、整理、比較、改善にも利用することで、生成AIの活用範囲はさらに広がります。

5. AIで作ったデザインを使用するときに確認したいこと

AIで希望に近いデザインが完成しても、そのまま広告や印刷物として使用する前に確認しておきたい点があります。

特に企業が商用目的で使用する場合は、見た目だけではなく、権利関係やデータの品質などについても確認することが大切です。

著作権などの権利関係を確認する

生成AIを利用する際に注意したいものの一つが著作権です。

「AIが生成した画像だから、どのような使い方をしても問題ない」と単純に考えることは避けた方がよいでしょう。
文化庁は「AIと著作権に関する考え方について」などを公表し、生成AIと著作権との関係について考え方を整理しています。

AIを利用して生成したものが既存の著作物と類似している場合など、利用の仕方によっては著作権侵害が問題になる可能性があります。
また、AIによる生成物そのものが著作物として保護されるかについても、一律に判断できるものではありません。

人がAIを創作のための道具として使用したといえるかどうかは、創作意図や人による創作的な寄与などを踏まえ、個別に判断する必要があると文化庁は説明しています。

そのため、企業の広告などに利用する場合には、既存の作品やキャラクターなどと酷似していないかを確認することが大切です。
著作権だけでなく、企業ロゴや商品名に関係する商標権、人物に関係する肖像権など、用途に応じて別の権利にも注意する必要があります。

また、生成AIサービスごとに利用条件は異なります。

商用利用の可否や生成物の取り扱いについて、利用しているサービスの最新の規約を確認することも重要です。
権利関係について判断が難しい重要な案件では、自己判断だけで済ませず、必要に応じて弁護士などの専門家へ相談することも検討しましょう。

印刷・その他用途に適したデータか確認する

AIで作成した画像をチラシやポスターなどへ使用する場合は、印刷に適したデータになっているかも確認します。
パソコンやスマートフォンの画面ではきれいに見えていても、印刷すると画像が粗く見える場合があります。
特に大きなポスターなどでは、使用するサイズに対して画像の解像度が不足していると、ぼやけたり輪郭が目立ったりすることがあります。

また、画面と印刷物では色の表現方法が異なるため、モニター上で見た色がそのまま印刷されるとは限りません。
文字についても注意が必要です。
生成AIが画像の中に作った文字には、誤字や存在しない文字、不自然な形状などが含まれることがあります。
会社名、商品名、電話番号、価格などの重要な情報は、特に念入りな確認が必要です。

さらに、印刷物には仕上がりサイズだけでなく、断裁時のずれを考慮した「塗り足し」など、印刷データ特有の条件があります。
AIで画像が完成したことと、印刷に使用できるデータが完成したことは、必ずしも同じではありません。

実際に印刷物として使用するときは、最終的なサイズ、解像度、色、文字、レイアウトなどを確認してから印刷工程へ進めることが大切です。

6. 結論・まとめ

AI時代だからこそ「何のために作るのか」を大切に

生成AIの登場によって、デザインは以前より身近なものになりました。専門的なソフトの操作方法を知らなくても、アイデアを短時間で形にできることは大きな魅力です。

また、何度でも違う案を試すことができるため、デザインや販促を考える楽しさを多くの人が体験できるようになりました。

だからこそ、気を付けたいことがあります。
それは、「作ること」が目的になってしまわないことです
チラシを作ること、ポスターを作ること、画像を生成することは、本来の目的を実現するための手段です。
企業の販促物であれば、その先には「知ってもらう」「興味を持ってもらう」「問い合わせてもらう」「購入してもらう」といった目的があります。

まず「誰に伝えるのか」を考え、次に「何を伝えるのか」を整理し、最後に「どのような行動につなげたいのか」を明確にします。
そのうえでAIを活用すれば、デザイン制作だけでなく、ターゲットの整理、企画、アイデア出し、比較検討などにも役立てることができます。

一方、実際に企業の広告や印刷物として使用する際には、著作権などの権利関係や、画像の解像度、色、文字、印刷データの仕様なども確認する必要があります。

AIは、人に代わってすべてを決めてくれるものではありません。
AIによって「作ること」が簡単になったからこそ、人は「何のために作るのか」をこれまで以上に考えることが大切です。

AIの便利さや楽しさを生かしながら、目的とターゲットを見失わず、伝えたい相手にきちんと届くデザインを目指していきましょう。